12月30日(日) 晴れ

集中するのに適度な衆人環視環境が欲しくて久方ぶりに大学近くの喫茶店へ行ったのに、年末年始の時短営業でやってなくて、喫茶店難民になってしまった。

私の通う大学には最寄り駅がいくつかあって、そのうちの一つが地下鉄の本郷三丁目駅である。研究室で作業をしていて煮詰まったときは、丸ノ内線の改札を出てすぐの上島珈琲店の二階によくいく。ここは近隣のドトール二店舗よりも椅子の座り心地がよく、話し声もうるさくない。けれど今日は閉まっていたので、仕方なくドトールに入って次の居場所を探すことにした。腰を下ろせたのはいいが、閉店まで1時間もない。いたずらに気が急ぐ。

チーズをトッピングしたジャーマンドッグをブレンドで流し込みながら探した次の候補は、スターバックスコーヒーの本郷東大前店だった。ここにはあまり良い思い出がない。とはいえ、致し方ない。

スターバックスに場所を移して、ミントとシトラスのハーブティを片手に、過去の苦い思い出を反芻する。最近大学の中央食堂が改装されてカフェスペースができたのだが、それ以前はもっぱら、学外の人と会って話すのはチェーンのカフェだった。尚且つ、平日の22時まで開いていて長居できる所となれば、スターバックス一択になる。ここはかつて、仲違いする前のYと駄弁って過ごした場所だった。

当時の私はYのことが本当に好きで、Yと会ってYの声が聞けるなら、なんだってよかった。一分一秒でもYの時間が欲しくて、帰りたがるYを引きとめてスタバが閉まるまでくっちゃべっていたのである。Yにとって楽しい時間だったのかはわからない。けれど、Yが私と話していて「楽しい」と思えた、と言ってくれたことをはっきりと覚えている。私たちは恋人にはなれなかったけれど、最後まで友人だった。

思えば、Yに縁を切られる前に最後に会った日も、そうやってスタバが閉店するまで時間を過ごしていた気がする。店を出ると秋の夜長の空気をまとって、別れの時間が近づいてくる。南北線東大前駅から帰るYを見送るために本郷通りを北へ歩くと、店から駅まで15分ほどかかる。私はその時間を少しでも引き伸ばしたくて、ゆっくりとした足取りでYの横に並んだ。あんまり歩くのが遅いと、Yに置いていかれてしまう。大学の正門を越えて、本郷キャンパスと弥生キャンパスを南北に分つ言問通りの横断歩道を渡ると、途端に別れの気配が濃厚になる。胸が締め付けられて、動けない。どうしてもYを帰したくない。スタバで散々泣いたのに、そういう日に限って涙は枯れず、Yを困らせてしまった。その日は結局、東大前駅の改札前で、終電が来るまでYは付き合ってくれた。もうかれこれ2年と3ヶ月前の、2016年の9月の話である。

そんな思い出が蘇ってしまうので、本郷三丁目のスタバには行きたくなかったのだ。そうこうしているうちに閉店時刻になってしまったので、店を出る。いまの私には新しい居場所ができた。本郷通りを反対方向に歩いて、駅まで戻る。本郷三丁目駅から○駅乗り、職場へと向かった。なんとなく人恋しくて職場で本を物色することにした。

お店に着くとT中君と店長が居た。今日の私は非番なので、二人の手の空いているときに適当に絡んで、コミックを3冊買って店を出た。その足でまた電車に乗って、昨日の書店で買い逃した本を買う。物欲が止まらない。終電近くまで本を物色して店を出た後、ふらっと入った富士そばですぐには食べきれない量の「富士もりそば」を頼んで、2日連続で終電を逃してしまった。何をやっているのだろうか。今日の私の気分を一言でまとめると「寂しかった」になるのかもしれなかった。